メジャー・システム:数字を覚える記憶術
メジャー・システムは、数字を子音の音に置き換える暗号です(0 = s/z、1 = t/d、2 = n、3 = m、4 = r、5 = l、6 = sh/j、7 = k/g、8 = f/v、9 = p/b)。母音は自由に足せるので、英語では32が moon(月)、41が rat(ネズミ)になります。
§ 1数字はなぜ覚えにくく、単語はなぜ覚えやすいのか
数字は抽象的で互いに似ているため、4 7 3 2 9 1 のような並びには、記憶がつかまるところがほとんどありません。物の名前を表す単語は具体的です。思い浮かべ、場所に置き、つなげることができます。ワーキングメモリが一度に保てるのはわずかな項目だけですが(Cowan はその上限を約4チャンクとしました)、いくつもの数字を意味のある1つの単位にまとめる暗号があれば、1つのチャンクを大きくできます。
こうした暗号の力を示したのが Ericsson、Chase、Faloon(1980)です。ある学生は230時間以上の練習と自分でつくった符号化の方法によって、数字の記憶範囲を7桁から79桁まで伸ばしました。メジャー・システムは、こうした暗号の既製品です。
§ 2変換表
| 数字 | 音 | 覚え方 |
|---|---|---|
| 0 | s、z、やわらかい c | zero(ゼロ)は z で始まる |
| 1 | t、d | t には縦線が1本 |
| 2 | n | n には脚が2本 |
| 3 | m | m には脚が3本 |
| 4 | r | four(4)は r で終わる |
| 5 | l | ローマ数字で L は50 |
| 6 | sh、ch、j、やわらかい g | j を裏返すと6に似ている |
| 7 | k、かたい c、かたい g | 7を2つ組み合わせると K が描ける |
| 8 | f、v | 手書きの f には8のような輪が2つ |
| 9 | p、b | p は9の鏡像 |
母音と、w、h、y の音には値がないので、単語をつくるために自由に足せます。数字を文字に置き換える発想は17世紀、フランスの数学者 Pierre Hérigone にさかのぼり、現在使われている音にもとづく形は19世紀に整えられました。
§ 3まちがいを防ぐ3つの規則
- つづりではなく音で数える。英語の knife(ナイフ)は k を発音しないので28、comb(くし)は b を発音しないので73、phone(電話)は ph が f の音なので82です。
- 重なった文字も、聞こえるのが1回なら1回と数える。kiss(キス)は700ではなく70です。
- 1つの文字が2つの音になることもある。fax の x は k と s なので、fax は870です。
この暗号は音にもとづいているので、どの言語にも合わせられます。どの言語でも、同じ10の音のグループを自分の言語のつづりに当てはめます。日本語なら、ローマ字(ヘボン式)で考えると確かです。l の音がないので、ら行を4、は行を5にし、ふ は f なので8、し・ち・じ は6、つ は1、ん はいつも2と数えます。リストを選ぶときは、音のあいまいな単語を避けましょう。
§ 400〜99のリストをつくる
多くの人は、00から99までの数ごとに単語を1つ決めて、一度だけ覚えます。短くて具体的な名詞がいちばん向いています。英語でよく使われるリストから、いくつか例を挙げます。
| 数 | 単語 | 数 | 単語 |
|---|---|---|---|
| 00 | sauce(ソース) | 50 | lace(レース) |
| 01 | seed(種) | 52 | lion(ライオン) |
| 12 | tin(缶) | 63 | jam(ジャム) |
| 21 | net(網) | 71 | cat(猫) |
| 32 | moon(月) | 74 | car(車) |
| 41 | rat(ネズミ) | 85 | file(やすり) |
| 44 | rower(こぎ手) | 91 | bat(コウモリ) |
| 47 | rock(岩) | 97 | book(本) |
他人のリストを使う必要はありません。自分で選んだ単語のほうが思い出しやすいことが多く、これは生成効果の一例です。Bertschら(2007)は86件の研究をまとめ、自分で内容をつくり出すことに平均で約 d = 0.40 の効果があると報告しました。どの単語も、声に出して確かめましょう。
§ 5数字を覚える手順
- 10の音のグループを、どの子音を聞いてもすぐ数字が言えるまで覚えます。
- 00から99まで、数ごとに単語を1つ決めます。まず00〜19から始めて、10ずつ増やしてもかまいません。
- 長い数字を2桁ずつに区切ります。473291 なら 47、32、91。
- それぞれの2桁を単語に変えます。rock、moon、bat。
- 単語を1つの場面でつなげるか、記憶の宮殿の場所に置きます。岩が月に激突し、クレーターからコウモリが飛び出す。
- 場面を再生し、単語を数字に戻して思い出します。
長い数字なら、記憶の宮殿の場所ごとに単語を1つか2つ置きます。競技者は PAO(person, action, object:人物・動作・物)のような、6桁を1つの場面にまとめるより大きな方式を使いますが、土台になるのはふつう00〜99の単語リストです。
§ 6限界
メジャー・システムは数字を覚えやすくしますが、楽にするわけではありません。最初は変換に時間がかかり、練習を重ねてようやく速くなります。復習しなければ、イメージはほかの記憶と同じように薄れます。年号、暗証番号、スピーチや試験に出る数値など、自分にとって大切な数字に使いましょう。
よくある質問
メジャー・システムは覚えるのが難しいですか?
10の音のグループは、上の覚え方を使えば一度に覚えられます。数字をすばやく単語に変えるには、短い練習を定期的に続けることが必要で、00〜99のリストを固定しておくと速くなります。
メジャー・システムと PAO の違いは何ですか?
メジャー・システムは数字を単語に変えます。PAO は2桁の数ごとに人物・動作・物を決め、3つの数を1つの場面にまとめるので、1つのイメージで6桁を保てます。メジャーのリストの上に PAO を組み立てる人も多くいます。
メジャー・システムはほかの言語でも使えますか?
使えます。数字と音の対応は同じで、変わるのはつづりだけです。言語ごとに、発音にもとづいて選んだ単語リストが必要です。
電話番号や暗証番号にも使えますか?
使えます。番号を2桁ずつに区切り、それぞれを単語にして、短い場面でつなげます。4桁の暗証番号なら、単語2つです。